昨日のこと

昨日のあの頭の芯の興奮と憔悴感はもう無い。十二時台に布団に入ったのだけれど昨日というか今日眠れたのは四時過ぎだった。胃が痛いというか重くて眠れなかった。仰向けに寝ていると内臓に重みを感じるような変な不快感がある。そのたびに起き上がって、掛け布団をかぶって数分間じっとしていた。

もう時間軸が混乱している。ずっと外は曇り空だったので、なんだか時間の推移を忘れている。朝から母と親父が保険証がどうのこうのと言い争っていた。親父は昨日からすでに「明日は保険証を持っていく」と言っていたと言い、母はそれを聞くと「もっときちんとわかるように」云々と言っていた。

親父が保険証なしでも事情を話せばわかってくれるかもということで、病院に電話をかけた。何かいろいろ訊いていたけれど、どうやらだめだったらしい。けれど初診に関しては今保険証があるのでそれでいけるということで、病院に検査予約のキャンセルを入れるためにも、母に今すぐ病院に行こうと言った。そしてすぐに二人は病院に出かけた。

何時ごろに病院から帰ってきたのかは覚えていない。親父が残務整理と荷物の整理ので出かけるために用意を始めた。そしていきなり保険証をもっていくので出すように言われた。どこにあるのか覚えがなかった。とりあえず財布の中を見てみるけれど、カードは無い。どのカード入れを見ても無かった。次に机の中も調べてみる。引き出しを空けて中身を全部出したけれど見つからない。今度は本棚を調べる。本の間にしおり代わりに挟んでいはしないかと、次々に最近読んだ本や、読んだような気がする本を開いてゆくけれどやっぱり見つからない。ついには机においてある本の下や、机の下なども探し始めたけれど、見つからない。自分の部屋の中で探す場所が無くなった。いらいらとした気持ちが湧いてきて、母に居間のファイルの中にあるのではないか確認したけれど、ない、という。息が上がってくる。再び自分の部屋を探し始めた。さっき見た財布や、机の中や本棚の本を探した。やっぱり見つからない。無くした様な気がしていた。何の確証も無かったけれど、そんな気がした。そんな気がしたけれどそんなことはありえないと思った。無くした記憶が無かったからだ。なのになくしたような気がしてきてそうではない事を証明するためにとりつかれたように何度も探した。見つからないけれど探し続けていた、親父が玄関までやってきた。引越しのときに無くしたと言うのでもういい、と言った。声を出す気力も無く、うん、とうなずいた。

親父が出かけた後で憔悴感がどっと襲ってきた。寝転びたかったけれど、なぜかそのあともさっき探した場所を探っていた。さすがに疲れて椅子に座って台所のほうを見ると、母が電話をかけて誰かと話していた。口調から見て親父らしかった。出て行ってまだ間もないのに一体なんだろうと思って耳を傾けていると、なにやら保険証がどうのと話している。やっぱり見つからないとか言っているのかと思ったら違った。見つかったとか言っている。ほっとすると同時に脱力した。僕がなくしたんじゃなかったんだ、というのが正直な感想だった。母によると、どうやら居間の引き出しの奥に隠れていたらしい。どっとつかれた。それだけ。