親父の荷物

朝八時半過ぎだったと思う。時計を見たのは。よく覚えていない。布団の中でボーっとしていた、と思う。びくりと心臓が痛んで何が起こったのかと思って、それが耳に入った甲高い音のせいだと気づいた。親父が帰ってきた。そう思う暇も無く反射的に僕は踏み出していた。一言で言えば寝ぼけていた。はい、と扉の向こうから聞こえそうもない小声でつぶやきながらドアを開けた。目の前に四角い段ボール箱があった。誰かが抱えていて、それが親父ではないことに気づいて目が覚めて息を呑んだ。佐川急便だったと思う。目が覚めたはずなのによく覚えていない。すぐに事態を呑み込んで段ボール箱に手を伸ばし受け取った。昨日母がそろそろ親父が荷物を送ってくると言っていたことを思い出していた。「サインでいいです」という声に、ボールペンで紙に苗字を書き込んだ。ボールペンと紙を受け取った瞬間がすっぽり記憶から抜けている。それらを返したことも。ドアを閉めて、段ボール箱を抱えて運び、ダイニングのテーブルの上に置いた。母に伝えた。母は耳が悪いので気づいていなかった。母は親父は今日あたり帰って来ると言った。布団を片付け、お茶を飲んで新聞を読んだけれど、なんだかだるかった。横になって眠れないけれど目を瞑っていた。十時半ごろ昼飯を食べた。そのあとはネットしていた。相変わらずニュースサイト見てぶくましてたりした。「Sleipnir」の新ベータ版が出たというので落として使ってみたけれど、ホイールクリックでオートスクロールができないので速攻で消した。もう正式なバージョンが出るまでは使わない。出ても火狐がメインなのは変わらないだろうけれど。母は段ボール箱から親父の服を引きずり出して、「臭い」とか言っていた。昨日は図書館が休みだったので本をブックポストに返しに行った。誰にも遭いたくなかった。いつでもそうだけど。なのにまた警官に呼び止められた。昨日のことなのにもういやだという気分になる。今度は求められて、免許証を見せた。怪しいと思われたのだろうか。ここで身分証も何も持っていなかったらどうなっていたのだろうか。パトカー呼ばれたりしたんだろうか。母に鍵を買ってきてもらってつけようかな。
曇り空でちょっと涼しかった。結局親父は帰ってこなかった。親父は直前まで今の会社に辞めることを伝えていないはずだ。何か引継ぎのために、まだ残務処理でもしているんだろうか。