冬の海を見て来たけれど、内海だからあんまり変わらない?

昼の一時半過ぎに出かけた。自転車の空気がもう抜けかけていたけれど、面倒くさいのでそのまま出かけた。

Tシャツの上からパーカーを着ているだけではさすがに寒かった。風が強くて冷たい空気が生地を通り抜けてくるのがわかった。震えながらペダルをこいだ。雲はあったけれどよく晴れていた。目線より少し高い日の光があった。海まで続く広い道路沿いを走りながら、ここへ越して来てはじめて海を見に行ったときの周りの景色の広さを思い出した。今はどっちへ行けば何があるかがほぼわかるので景色は閉じている。国道を横切ってマンション群を抜け、海沿いの道を抜けて橋を渡った。左手には重油の膜みたいにてらてらした海面がうねっていた。

島に入ってすぐに右折して、大型トレーラーが脇に止まっている道路の真ん中を突っ切ってもうひとつの橋から延びた道路で左折した。淡い青空をさえぎる無数の底の暗い真っ白な雲がその先で道の向こう側とひとつになっていた。海が近いことは知っていても、いつもここへ来ると一瞬そのことを忘れる。

ひたすらこいで白い壁までたどり着いた。風に煽られながらスロープを登ったら海が見えた。海は冬場の使われていないプールのような緑色をしていた。波音が低く轟いて波頭が風に千切れて飛沫がたまに頬に掛かった。かもめは強風を受けて羽を動かさなくて、まるで空中で止まっているみたいだった。海の向こうの陸地も橋も今日ははっきり見えた。高い煙突の煙が真横に飛んでいくのも見えた。海面にはところどころに真っ暗な塊が見えた。なんだろうと思った。しばらくしてやっと雲の影だと気づいた。時折空の向こうから飛行機が飛んできて、急角度で腹を見せながら旋回して海の向こうの銀色の陸地へ滑り込んでいく。太陽が雲に隠れてしまうと、風が強くなり、波も高くなった。ふと視線を遠くに移すと向こうの橋が見えなくなっていて、陸地も煙のように溶け込みかけていた。ひっきりなしに風が叩きつけていたので、耳が痛かった。自転車を再びこぎ始めた。

帰りはほとんど何も見えていない。行きよりももっと狭い視界があった。三時前に帰った。出勤する親父に家の近くですれちがって声をかけた。家に着いて母にどこに行ってきたのか訊かれて海に行ってきたと答えた。母に何か訊かれたけれど、寒さと疲労でボーっとしていてよく覚えていない。