そのつもりは無かったのに、海に行ってきた

自転車に乗って出かけた。本屋に行くつもりだった。けれど、結局本屋で止まらずに海まで行ってしまった。帰りに寄ろうと思った。いつもの通り国道沿いを走って、高層マンション群を抜けて橋を渡り、だだっ広くて人気の少ない産業団地を走り続けて直線道路の向こうの雲のような陸地に向けて自転車を走らせた。

高い壁の前まで来たら横のスロープを登って全景が見える場所まで行って自転車を降りた。なんか海の前にいることが信じられなかった。既に何度も来ているというのに。海を見ていてもその向こうの陸地を見ていても当たり前のように感じられるようになってしまったことに漠然と驚いて、そしてそれを受け入れることができずにいた。僕にとっては海は遠くにあって自分の足ではたどり着くことのできないものだったからだ。今では歩いても一時間で着いてしまうだろう。低く弱くなった陽光が、青黒い尖った海面に吸い付いて目の中で広がって眩しくて見ているのが辛かった。パソコンのバックライトをずっと見ていて目がおかしくなっているからだろうか。かもめ以外に黒くて首の長い鳥の群れが飛んでいく。あの鳥の名前、何というのだろう。調べたいけれど、検索語が思いつかない。手すりに寄りかかっていたけれど、体中から力が抜けたような感じで、やけに疲れていた。もう四時前だった。結局本屋に寄らずに帰った。

家に着いたら母が夕飯の支度をしていた。僕は着替えて顔を洗ってすぐ自室の床に寝転がった。頭がボーっとして何にも考えられなかった。ここ数日運動しているのに、何でこんなに疲れたんだろう。歩くときの筋肉と自転車をこぐときの筋肉がかなり違っているのだろうか。