空白だらけの一日

眠ったのか眠ってないのかわからない。時折お腹の辺りが気分が悪くて起き上がりわき腹をさすった。親父が朝早くに帰った来た音をおぼろげながら聞いたような気がする。七時あたりには既に意識はあったけれど、布団にめり込むような重みを感じて起き上がれなかった。胃が痛くなるのを感じて、音が耳に入ってくるせいだと気づいた。母が何かを言っている。母は何度も同じようなことを聞いている。何度も。はっきりと言ってくれなければわからないと言っている。親父は今日明日休みで、日曜日に仕事だと何度も言っていた。ボーっとしていたのと胃が痛いのとで、あまり詳しく覚えていない。本当にこんな会話あったのか信じられない。

八時過ぎに起きて布団を畳んだ。台所に出て行ってやかんを火にかけた。居間を見ると、親父は寝ていた。お茶を飲んでからしばらくしてすぐにパソコンの電源をつけた。今日の天気は覚えていない。PCのすぐ向こうは窓があり、そしてその向こうには団地の棟があり、それを挟んでコンクリートで舗装された道と、子供の遊ぶ砂場がある。空はうすく曇っていたような気がする。PCのバックライトがまぶしくて空に目を何度か向けた覚えがある。PCよりもぼんやりとして眩しくて、それから再びPCに目を向けると瞳孔が閉じたせいでしばらくは眩しさをあまり感じなくなった。それなのに、天気を覚えていない。青空は見えていなかったような気がする。

母は朝から鍋に何かを煮ていた。昼飯を食べたあとで覗くと、散らし寿司の材料かな、と思った。あとで母に訊くと、やはりそうだった。

今日は親父の誕生日だと気づいていた。親父は彼岸が誕生日だ。日本でなければ意味のないことだけど、日本人だから仕方がない。母に死んだ人に手を合わせてこいと言われ、仏壇で、親父と一緒に手を合わせた。親父の誕生日のことで頭がいっぱいで、死んだ誰のことも思い浮かばなかった。食卓に座って親父に誕生日おめでとうと言った。親父はあんまり嬉しそうじゃなかったけど。まあ、当たり前だが。けれど、僕の知っている人で死んだ人間というと、両親の祖父母くらいだ。しかも父方の方とは会ったのは物心つく前、しかも祖父が死んだときだけだ。つまり面識はないも同然だ。だから顔の思い浮かべようがない。母方のほうは面識はあるけれど、顔を思い出せない。最後に会ったのが小六の頃だったし。祖母は老人ホームでぼけぼけになっていて、母のこともろくにわからないほどだった。足が曲がったままで動かせなくなっていたとかいったことは覚えているのに、顔は一向に思い浮かばない。後は生まれてさえいない、流産した、僕の弟か妹だ。これも顔の思い浮かべようがない。

PC動作が遅くなったのでデフラグをした。寝転んで外を見ると、六時過ぎなのに、もうとっぷりと日が暮れていた。そして、赤くて冷たい夕日をほんの数十分前に目にしていたことを思い出した。