続・図書館で本を借りた

行って来たのだけれど、昨日はあのオナニー文章書くのに四時間ぐらいかかったので、夜中の四時ごろになってしまい、書ききれず、あきらめて寝た。今日の午前中に書こうと思ったのだけれど、諸事情でどっと疲れてしまい、書く気力が湧かなかった。というわけで昨日のようなテンションは無理だけれど続きを書く。

自転車に乗って出発した。むっとするような暑さではなかった。気持ちのよい汗が浮いてくる。広い国道を横切り、その次の交差点で右折し、石畳の歩道を行き、市役所、福祉会館を横切って、約七分ほどで図書館に到着した。入り口の周りには壁や植え込みに沿って、びっしり自転車が止めてあった。けれど自転車置き場を覗いてみると、止めるスペースがあった。前に止めてあった人が自転車を抜いてできたスペースだ。自転車置き場から出ようとすると、向かいから小学生の集団五、六人が図書館から出てきて、狭い通路で鉢合わせになり、通りにくかった。ガラス張りの図書館内にはうんざりするほど人がいるのが見え、座る場所など何処もないことがわかった。

自動ドアを抜けて図書館に入ると、学生とおぼしき男とすれ違った。視線を少し下に向けてやり過ごす。左のカウンターに目を向けると、あの司書がいる。今まで二度行った時、僕を胡散臭そうな目で見、僕を警戒していたような気がするあの初老の白髪頭の男だ。そのまま歩速を落とさずに一番近い本棚の列に滑り込む。立ち止まった目の前の棚は現代小説の棚だった。興味がない。いや、知らないのだ。今の作家の作品など。だからといって古典に詳しいわけでもないが。立ち止まってしまった手前、すぐに動くわけにもいかず、棚を二つほど見て回る。どんな本があったかなど覚えていない。

次に自然科学の棚に移動した。ブックマークに「岩波数学時点は千ページ以上ある」などと書いておいて自信がなかったので確かめておこうというのと、現物を見てみたかった。数学に興味を持ったのは例の「解けたら一億円」の問題という、割と下世話なものだったのだけれど、ちょっと数学自体にも苦手ゆえの憧れみたいなものがあった。けれど数学の棚にはなかった。辞書の棚でも見つからなかった。

結局、文学全集の置いてある壁一面の大きな棚からサドの本をとってもって行くことにした。いや、そう思ったときには足を踏み出していた。

あの司書がいると思うと恐ろしかったけれど、足が止まらなかった。周りより少し早足で本棚の列を抜けて、ほぼ真正面からカウンターが近づいてくる。そう感じながら足は止まらず、財布を取り出しながらあの男性司書の前に僕は立ち止まった。彼は顔を見上げ僕を向いた。僕は本をカウンターに差し出していた。何で彼でなくてはならなかったのだろう。横にも司書がいて、その人にも差し出せたような気がするのに。

本を差し出すと同時に初めてここで本を借りることを伝えた。声は、震えと上擦りを抑えようとしたために弱々しく、くぐもっていたと思う。自分の声だけが膜を通して聞こえるようだったと、今になって思う。司書は僕の想像に反して、淡々として、身分証を持っているか訊いた。僕は財布から自動車の免許証を出して、司書に手渡した。司書は、名前と住所と電話番号を書くようにと僕に用紙を渡した。つるつるしたカウンターのテーブルの上でボールペンが滑り、文字がゆがみ、書きづらかった。書き終わり用紙を手渡すと、僕の免許証を返し、司書は無言でパソコンに向かい、データを打ち込み始めた。無視しているというより、まるで目の前に僕などいないようだった。僕はカウンターの前に突っ立って、怯えを感じ始めた。手の中の財布を両手でいじくりながら、焦燥感に駆られ始め、ここにいてもいいという承認を求め始め、止まったロボットのようでは怪しまれるとも思い、恐る恐る辺りを見回した。皆、僕と目が合いそうになった瞬間、弾かれた様に視線をそらしたような気がする。

一分か、二分だっただろうか。司書が僕の名前を丁寧に書き込んだカードと、何かの小冊子と本を手渡した。いま何か言ったような気がして問うと、十冊、二週間まで借りられる、とのことだった。そのまま出口に向かった。膝が笑っていた。
若干やわらかくなった太陽光に顔をしかめ、自転車に乗って、走り出した。

国道を渡り、高架橋の下の墓場の近くで白バイとすれ違った。嫌な予感がした。一旦は離れたけれど、後ろから白バイのエンジン音が近づいてきて僕を追い越して停車し、すいませんと慇懃に声を掛けてきた。若い男だった。もう一人いたけれど、とんと覚えていない。鍵が付いていない事について問われた。僕はまたもや求められてもいないのに免許証を差し出し、最近ここに引っ越してきたこと、以前は***に住んでいたこと、そして今回は、この自転車が一度盗難に遭ったことなど、すでに数日前にも、パトカーに呼び止められたことも話した。声は震えていたと思うし、怯えていた。精神的には限界を超えていた。西日を背に感じながら警官たちが後ろで照会が終わるのをじっと待った。若い警官にうちのほうで照会するのでもういいとやさしく言われ、安堵に崩れ落ちそうになりながら自転車で走り出し、家にたどり着いた。

夕飯の下ごしらえを終え、テレビを見ている母に、借りてきた本を見せた。