外出

今日も自転車に乗って外に出た。今日は少し遠出した。二十分くらいかけて隣の市の図書館まで行ってみた。ここの図書館は、隣接する市長町村の住人なら本が借りられる。けど今日は借りなかった。今思うと取り敢えず借りてカードくらい作っておけばよかったと思う。けどやっぱりカウンターに本を持って行くのをびびっていた。暑さと自転車を結構こいだせいでそれだけのパワーが出なかったせいもあるけど。

帰り道、ひーこらいいながら自転車をこいで国道を走っていると、向こうからパトカーがやってきた。いやな予感がした。僕の自転車は一度盗難に遭っている。そのときに鍵を壊されて取ってしまっていたからだ。パトカーは歩道沿いにつけ、停車した。そして、警官が降りてきて僕を呼び止めた。中年の警官だった。
何を問いかけられたのか具体的な言葉をほとんど覚えていない。いくつか列挙したい。
「最近自転車の盗難が多い云々」………………
だめだ、思い出せない。どこから来たのかといった事も、もう一人の警官から訊かれたように思う。答えたら驚かれた。そりゃそうだ、自転車で来るには少し遠い。自動車の免許証も見せた。けれど、これは自分から言い出したことだ。今書いていてもそんなことを言い出した自分に驚いている。*1

他人とここまで話したのは数ヶ月ぶりだろうか。なんというかなんというかなんというか
警官は「鍵がついていなかったから云々」とか言っていたけれど、数十メートルも先から、しかもあの角度から(ほぼ真正面だと思う)自転車に鍵がついているかを肉眼で確認できたというのだろうか。絶対にありえないと僕は思う。大きくても十センチ程度の鍵を、しかも動いている車内から見分けるなど不可能だろう。つまり最初から当たりをつけて、まあ好意的に見れば、被害届けが出ている自転車の型や色に似た物を探していたのかもしれない。だけど僕の乗っているような自転車はよくあるタイプのものだ。そのたびに声を掛けているとは考え難い。つまりは最初に僕の姿が目に入った瞬間から怪しいと思ったに違いないのだ。

僕はそんなに怪しい身なりをしていたかな、と思う。髪は伸び気味だけどアップしているし、シャツも白地に小さなフラワーのパターンのもので、個人的には一番気に入っていたものだ。パンツは濃いカーキ色のハーフパンツで、シャツとは合っていないとは思ったけど、自分で言うのもなんだけどそんなにおかしいとは思わない。

つまり、いや、つまりになっていないけど。僕の「雰囲気」がおかしいのだ。サイコ臭が漂っていたのだ。いや、前言が言い過ぎならトートロジカルだが「怪しい」のだ。

もう考えたくない。警官たちと別れてから自転車をこぎ続ける間も、帰ってからも、電話がかかってきて警察署に出頭を要請されるのではないかとびくびくし、必死で弁明の言葉を考えていた。警官たちが確認していたのは、被害届けの出ている自転車との照合であって、僕の自転車の「正当性(なんといえばいいのだろう、わからない)」*2なんかじゃなかったというのに。*3

*1:僕は、警官たちに取り囲まれている間中、「疑われている(これは、自転車を盗んだ、という意味だけではない)」という意識にとらわれ、自分は「そんなにんげんではない」ということを論証しようとしていた。

*2:「この自転車はあなたの名義になっていますか」と最初に訊かれたのだけれど、この自転車は僕が高一の時に通学用に親が買ってくれたものだが、僕はこの自転車が誰の名義なのか知らなかった。それが直接的な原因だったのだ。けど。これ以上は書きようがない。今は、自分で自分を赦すしかない。けれど、なにを?

*3:これも今こうして考えていてやっとわかったことだ。